ある自衛隊OBのつぶやきをご紹介します。
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「自衛隊員に『君たちは憲法違反かもしれないが、
何かあれば命を張ってくれ』というのはあまりにも無責任だ。
そうした議論が行われる余地をなくしていくことが
私たちの世代の責任だ」
9条に自衛隊を明記する加憲案をめぐって
安倍首相がこう発言したのを聞いたとき、私は思った。
安倍さんの発言は、これを裏返せば、じつは政府も自民党も
今の憲法上、自衛隊は違憲の存在だと認めたに等しいのではないか。
自分を含め、自衛官は自分たちが違憲の存在であるなどと
考えたことはないし、不安を抱いたこともない。
国会答弁において、政府は一貫して自衛隊は合憲の組織だと
説明してきたのだ。違憲であると主張してきた野党は、
共産党であり、社会党だった。
いったい安倍加憲案は、何を目指そうとしているのだろうか。
率直に言って、この複雑な日本の安全保障環境にとって
喫緊の課題は、憲法9条の改正ではない。
9条を改正して自衛隊を書き込んでも、
自衛隊が万全なはたらきができるようになるわけではない。
むしろ今必要なことは、グレーゾーン事態という
「平和以上戦争未満」の事態において、
自衛隊がその実力をしっかり発揮できるよう
関係法令を改正することだ。
たとえば海上防衛において
海上保安庁の能力を超える事態になった場合、
自衛隊に対して海上における警備行動(海警行動)が発令される。
果たしてこれによって海上保安庁の能力を超える事態を
海上自衛隊がカバーできるか。
海警行動が発令されると、海上自衛隊は
「海上保安庁法第20条」が準用されることになる。
海上自衛隊が海上保安庁と全く同じ権限を
行使することができるというわけだ。
しかし、対処できるのは軍艦および公船を除くと
そこには書かれている。
海上自衛隊が出ていっても、相手国の軍艦や公船に対しては
何もしてはいけないのである。
これで何かが解決するだろうか。
むしろ、海上自衛隊が出ていった映像を見た国際世論は、
日本が先に軍隊を出して相手国の“コーストガード”の船に
対応したとして非難するだろう。
すなわち日本が卑怯な手を使った、
「リメンバー・パールハーバー」の再来だと映る。
こういう主張をすると、自衛隊OBの中でも
「君は政治を知らない」と言う人がいる。
9条1項2項を残したままの自衛隊加憲なら、国民も反対しないだろう。
変えられるなら、そこだけでも変えたらいい。
政治とはそういうものだ、というわけだ。
彼らは改憲のための現実路線を歩んでいるつもりかもしれない。
だが現場はどうなるか。
9条1項2項がそのままで3項に自衛隊を明記した場合、
自衛隊は憲法上明確に「軍隊ではない」軍事組織となる。
たとえば自衛官が捕虜になったときはどうか。
国際法上、捕虜の身分は軍人に対しては保証されているが、
それ以外は「戦争犯罪人」であり、最悪、その場で処刑される。
現状のままでいることが決して望ましいわけではないのは百も承知だが、
少なくとも今、自衛隊は国際的には軍隊として認められているため、
このような混乱は起きない。
自衛隊を「軍隊ではない」と規定してしまうことのリスクを
安倍加憲案の支持者は本当にわかっているのだろうか。
他方、自衛隊は平和安全法制によって十分に専守防衛の域を超えて
戦えるようになっている、と主張する人もいる。
だから国防上は問題がないとでも言いたいのだろうが、
それこそ立憲主義国家として本末転倒ではないか。
オブラートにくるんで作った法律の
隠された刃をもっと説明すべきだ。
再び問う。
いったい安倍加憲案は、何を目指そうとしているのだろうか。